追記-専門職大学法案成立に思うー

 専門職大学法案が成立した。少しずつ、思うところを述べていきたい。

 高専との整合性はついに論じられなかった

 筆者は、高専は専門職大学制度に合流すればいいのではないかと述べた。その中で名を取り実も取るー皮肉にも内容が空っぽの新制度なのであるから、大いなる反省と蓄積ノウハウを活かして実質化出来るーというふうにすればよいと考えた。しかし、これには重要な前提が一つある。高専が非大学型高等教育として、どのような矛盾を帯び、しかしその中で良くも悪くもどのような役割を担ってきたか、を徹底して総括(あまり好きな言葉ではないが、こうとしか言いようがない)した上で、新しい制度につなげるべきである。たとえ、新しい大学制度のみをつくるにしても、高専制度との整合性は議論されるべきであったが、「高専は中学卒業後5年」の教育課程に特徴があるから、大量の高卒者の入学は予定できないとだけ述べられただけだった(もう一つの重要条件は、既存の大学の半分を一般大学制度から引き離し、専門職大学へ転換させることである。専門職大学制度が作られてしまう以上そうすべきである)。

 高専制度への反省や高専制度との整合性は何ら議論されないまま、この度、新しい大学制度“のみ”が出来上がった。そして、そのこと自体も大きな矛盾を引き起こす。専門職大学制度は、「職業」「実践的」という高専の法律上の目的規定と事実上の教育目標と同様の目的規定をもった学校制度である。ところが、専門職大学も一応大学であるから、高専制度にはない言葉である「研究」「応用的な能力」が入っている。

(1)この専門職大学には、一部大学からの移行も考えられるが、専修学校からの転換が考えられる。専修学校が要件を満たして突如として「研究」「応用」のある「大学」になるのである。しかも、学位授与権もあるという。高専制度を徹底批判し、ある意味では無くしてしまえとさえ思っている筆者であるが、これでは余りに高専に酷である(但し、高専制度を慮って言ってるのではないことは念を押しておく)。高専はこれまで、矛盾を帯びながらも、一般科目を大幅に削るなどしながらも自分たちを大学工学部相当の教育を行うと称し、二極化・二山化の傾向があるとはいえ比較的成績がよい者も多く中には抜群の頭脳を持つ者もいる。教員についても、当初から名門大学や実力を蓄えた旧制工専出の企業出身者-かつては、彼らを中心に高専でも専門学科の教員の4割以上に実務経験があったはずであるーや大学教育経験者を採用し、専攻科設置が決まってからは、学位取得者を採用しなければならなくなった。目的規定に「研究」「応用」がない高専に事実上研究義務を課し、かつ、応用的な能力を持った教員や技術職を輩出しながら制度的にはそのまま、一方、専修学校が格上の学校になるのである。おそらく、既存の大学は専門職大学への転換を渋るだろうから、その過程で専修学校からの昇格が甘くなり、専修学校上がりの専門職大学は増えるだろう。大学工学部の大量増設、短期大学への学位授与権付与、大学増設と大学進学率の増大、と次々と高専の存在へ対抗する事象が生じてきたが、またしても、危機がやってきた。今度は高専と同様の教育目標を持った学校制度が出来るのである。

(2)高専関係者は、専門職大学制度に対して、具体的な対応や方策を掲げたのであろうか。今のところ確認していない。転換せよとまでは思わなかったかもしれないが(後述するように、5年一貫楔形にこだわる限り合流・転換は出来ない)、せめて、高専制度と間で「ねじれ」を生じることを声を大きくして主張すべきではなかったか。こういうときに、国立大学工学部定年退職出身校長が少しは役立つというものだが・・・。

 高専は一応、社会にであるための学校である。目的規定がそうだし、実際、6割は就職する。このことを忘れ、国立大学工学部「編入」に活路を見出し対岸の火事のように思っていまいか。まず、その編入学自体が制度との矛盾を帯びている。次に、最近は編入学自体が定員面と試験内容面でやや甘くなっており、かつ、高専生の学力低下もからまって、大学工学部での高専出身者への評価が変わってきていることも考慮しなければならない。また、早期のエリート理工系または技術教育機関に成りあがろうとしても無駄である。法律の規定や社会と教育行政上の要請がそうなってはいないし、そうなっていない機関に優秀な生徒は来ないし、来てはならない。そもそもそのような教育編成は既に本論で述べたように重大な問題を引き起こす。逆に多くの人たちはこのような教育課程に学ばなくてもしかるべき工学者や技術者に大成している。このような目論見は、高専制度初期に中堅技術者養成機関であるはずの教育機関に極めて優秀な者たちを誘ったことや(そして精神的そして実際の不遇を買った者も多かった。逆に大卒と遜色ない力を発揮した者も多くいた)、大学教育には及ばない教育課程なのに大学工学部なみの教育と卒後の待遇を宣伝し続けた矛盾と欺瞞の同一線上にある。

(3)一般大学、そして、専門職大学が出来ると、高専は正真正銘、第三群以下の高等教育制度になる。(1)でも述べたとおり、法律上、高専は「研究」「応用」さらには「知的」であることを期待されていない。専門職大学へは職業高校からの進学も考えられるから、高専出身者はその法律上の目的どおり5年制の工業高校出身者になる方向へ押しやられるのではないか、既に、そうなってはいまいか。

 以上思い当たることを述べてきたが、高専側にも非がある。結局、いまだに「中学卒業後5年一貫楔形」思考で自分たちや制度を縛っているため柔軟な制度的対応ができない、それどころか、新しい大学制度の議論に食い込むことさえ難しかったのである。このお題目をどれだけの高専関係者が信じているかはわからない。しかし、当局は、このような考えを持った関係者がいること幸い、高専の昇格や制度的転換意欲を冷却化する、したがって、下級技術者需要を満たすことが出来る考えているのではあるまいか。

 筆者は陰謀史観を取らないから、それもまたよしである。一種の政策である。しかし、高専制度に、もはや優秀者を誘うことは出来ない・・・それを許してはならない。そのような制度なのである。それが皮肉にも外部的要因によって確定したのだ。